モダン・ミリー

　４月２０日、２１日と「モダン・ミリー」を観に行って来た。ミュージカルを観に東京へ行くのは久し振りだ。昨年は３本のミュージカルに出演されていたが、幸い、３本とも関西公演があったので、東京まで行かずに済んだのだ。
　１１時前に東京に着き、ホテルに荷物を預けて、上野の東京国立博物館にレオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」を見に行った。フィレンツェで何度も見た絵だが日本に来ていると言うので行ってみた。詳細はブログで。ホテルが東新宿だった為、殆ど都営地下鉄で動いたので、１日乗り放題券を買った方が良かったと気付くのが遅く損した。
　陽子さんから事前に「公演が終わったら楽屋にいらっしゃい」と言うメールを頂いており、「遠くてややこしい」とのアドバイスもあったので、楽屋口を調べるが、正面入り口横に楽屋口はあった。実は楽屋口を入ってからが遠くてややこしかったみたいだ。
　新国立劇場は大きな建物でなかなか奇麗で立派な建物だったが、やたらと階段が多く、職業柄、車椅子には優しくないなと感じた。エレベーターはあるのだろうが、同じ空間には見当たらなかった。
　入り口でパンフレットを購入し、中に入る。１０列目だったのだが、左の島のセンターよりで見にくい席だった。と、いうより、この劇場、丸くなっていて、本当にど真ん中でない限り見にくい作りになっている。後半は開いている席へ移動して見た。
　内容は久し振りにミュージカルらしいミュージカルって感じのミュージカルで、ストーリーは他愛もないシンデレラストーリーなのだが、何も考えずに楽しめるアメリカンミュージカルだった。ミュージカルって、本来、こういう楽しいものなんだろうな。
　出演者も皆さん、ミュージカルの世界では活躍されている方ばかりで良かった。その中で、陽子さんはやはり歌のスペシャリストだ。評判の「Only in New York」は、もう本当に素晴らしい。歌が上手いとか言う次元ではない気がする。プロの歌手でもあの歌をあれだけ歌える人はあまりいないだろう。役柄的には美波里さんが演じたホテルのオーナー役は美味しいし、面白いと思うし、最近、演技者としても頑張っている陽子さんは、この役かなあなんて思っていたのだが、この「Only in New York」を聴いて、何故、この役に陽子さんが選ばれたのか納得出来るものがあった。久し振りに演じるというよりは地でいける役所だった。そんな中でも、優しくミリーを諭したり、ジミーやドロシーを見守って行くところは、「ボーイ・フロム・オズ」でピーターを優しく見守っていたお母さん役に通じるところも感じた。きっと、舞台同様、裏でも若い人達を見守り引っ張っているんだと思う。
　他に美波里さんとの絡みのシーンもめちゃ面白かった。このお二人、役者が違う。他の出演者を見ても、すっかりベテランになってしまったんだなあと感じた。ミリーを演じた紫吹淳さんとジミーを演じた川崎麻世さん、恋人同士を演じた二人を見て、２９年前にやった「ハッピーエンド」というミュージカルを思い出した。正義感が強く、神に忠実であるが、どこか砕けた一面も持ち合わせている救世軍の少尉、リリアン・ホリデーの役で、鹿内孝さんが演じるギャングのボス、ビル・クラッカーが相手役だった。陽子さんは２７歳になったばかりで、あの頃は年齢的にもこういう役が合っていた。３０年近い年月が流れ、今は若い人達を見守る役になって来たんだなと感無量になった。
　出番はそう多くはなかったけど、美波里さんとの絡みも面白かったし、「Only in New York」を聴けただけでも行った甲斐があったというもんだ。

　終了後のトークショーは陽子さんではなかったのでパスして、すぐに楽屋にお邪魔した。ちゃんと陽子さんの字で私達の名前を受付に渡して下さっていて感激した。楽屋口入ってからグルグル回ったり、階段上がったり、これが「遠くてややこしい」と言うことだったんだな。あまりに早く行ってしまったので、驚かれていたけれど、快く中に入れて下さり、お話もして頂けた。陽子さん、化粧を落とされてすっぴんだったけど、凄く奇麗でとても５０代には見えなかった。
　他にも姪御さんがお友達と来られていて、私達も含めて「Only in New York」は素晴らしかったと言うと、「私は歌手だから」とおっしゃったその一言が、とても頼もしく、私は嬉しかった。何でも器用にこなせる方だけど、やっぱり本職は歌手だし、歌の部分では誰にも負けないという自信が感じられた。そう言える為の努力は常にされているのだろうが。今回の役所は踊れて演技が出来て、「Only in New York」が歌えるということが絶対条件だったとのことで、選ばれて役が貰えるのでやり甲斐があるとおっしゃっていた。あの歌を聴いたら、誰も納得だと思う。黒人が歌うジャズは日本人には難しいと思うので本当に素晴らしい。「また、ニューヨークの歌がレパートリーに増えたね(^_^)」とおっしゃっていた。
　今回の衣装は全員、ブロードウェイで使われたものを使っているとのことだった。出演者全員背が高いのでお直しなしで着られるとおしゃっていた。１６８ｃｍの陽子さんが一番小さいというのだから、みんな大きい方ばかりなんだ。
　「あれだけの舞台をやっていて汗をかかないんですね」と言うと、プロは顔に汗をかいてはいけないんだとおしゃっていた。顔に汗をかかない様に訓練もするそうだ。汗をかきそうになったら、団扇で仰いだりして、汗を出さない。体中は汗をかいていても顔にはかかない様にしなければならないとのことだった。陽子さんの話を伺っていると、本当に自分に厳しいプロ意識を感じる。その厳しさがあるから今日の陽子さんがあるのだと思う。パンフレットにも「『楽しむ域』に入って行くのはなかなか難しいです。やっぱり練習に練習を重ねることで余裕も生まれるし楽しめるようにもなる。ベテランになってきたからこそ、そういう想いも強いですよ。若い頃は勢いで何でもできるけど、この立場になってくるとプロとしての意識も強くなってきます。稽古時間は限られているから、目に見えないところでいかに練習を積んで、自信を深めてゆくか、本番で自分自身もお客さまも楽しめるよう、今はとにかく練習！ですね」（パンフレットより抜粋）と書かれていて、本当に偉いなあと思ってしまった。若い頃から陽子さんは努力家だと言われていたけど、今も変わらないんだな。これくらいのキャリアと実力があれば、どうにでもこなせると思うのに、ベテランになってきたからこそもっと努力をするという姿勢は本当に立派だと思う。私はこんな陽子さんのファンでいて本当に良かったと思う。私自身の人生のお手本でもある。

　以前、一緒にミュージカルをやった子役の子達も挨拶に来ていたが、本当に優しく接しておられて、この子達にとっても憧れのシンガーなんだろうなあと思った。でないと、わざわざ来ないよね。
　パンフレットにサインも頂き、帰ろうとすると、「明日も良かったら（楽屋に）いらっしゃいね」と声をかけて下さった。
　翌２１日。初めは観る予定はなかったのだが、舞台って１回観たら絶対もう１回観たくなるものだし、帰るまですることもなく、きっと「今日もやっているんだなあ」と寂しくなるに決まっているので、直前にチケットをお願いしたのだ。陽子さんがそこにいるのが解っているのに、他のことをしに行く気にはなれない。チケットを頼んでおいて正解だった。席は、１７列目で表情は見にくかったが、センターだったので舞台全体はよく見えた。１度目は通しでなんとなく見て、２回目は見たいところを注意して見るので、よく見えた。
　舞台終了後は、この日は土曜日で、楽屋を訪ねるお客様も多いだろうし、ソワレもあるので遠慮して帰って来た。小１時間、楽屋口の前で迷っていたんだけど。やっぱり、陽子さんの前に行くと緊張するし(^_^;)。
　その後、新宿に出て小田急デパートの１３階にあるレストランで食事をして、東新宿のホテルで荷物をピックアップし帰路に着いた。今回は、上野に行った以外は、新宿周辺から出ることなかったので、ちょっと物足りなかった。新宿は大き過ぎてあまり好きな街じゃないな。最近は銀座がホームグランドなので…(^_^;)。
　帰宅後、暫くすると、お礼のメールが届いた。お忙しい公演の最中に本当に有り難いことだと思う。
　前回、バンドが譜面を忘れたとかで聴かせて貰えなかった「Only in New York」、今度こそスウィングで歌って下さるそうだ。目の前で歌って貰えたら、これまた、感激だろうなあ。今から６月２２日が楽しみだ。（2007.5.3）